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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)661号 判決 1950年6月29日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人両名弁護人池辺甚一郎上告趣意第一点について。

原判決の認定した事実第三の(二)に依れば、被告人は判示昭和二十一年九月初頃行使の目的を以て偽造証紙をその情を知りながら、強制通用力を失った旧百円日本銀行券に貼布したというのである。ところで、日本銀行券は昭和二十一年三月二日限り強制通用力を失い(同年二月一七日勅令八四号日本銀行券預入令及び同日大蔵省令一三号日本銀行券預入令施行規則)、その後は旧日本銀行券に一定の証紙を貼用したものが新券と看做されるに至った(同年二月二〇日勅令九〇号日本銀行券預入の特例の件)。それ故、被告人がその後判示のように行使の目的をもって偽造の証紙をその情を知りながら既に強制通用力を失った旧日本銀行券に貼用し、依ってもって新券と看做される偽物を造り出したときは、刑法一四八条の銀行券偽造の罪を構成するものと言うべきである。されば論旨は理由がない。

同第二点について。

所論は、原判決の事実誤認を主張するに帰するから、法律審に対する適法な上告理由とは認め難い。

同第三点について。

日本銀行券預入令は、その後廃止されることなく今日に至るまで依然効力を有している。預金封鎖が解除されたからと言って、本令が失効したものと解し又はそのように取扱うべきものとする理由は存在しないのである。それ故、本令を適用して有罪判決をしたことは毫も違法ではない。

同第四点について。

所論の原審における主張は、単に法律見解の主張たるに過ぎないものであって、旧刑訴三六〇条二項の主張に該当しないばかりでなく通貨偽造罪としての法条を適用することによって間接に所論の日本銀行券預入令違反を否定する判断を示しているのである。論旨は採るを得ない。

同第五点について。

記録によれば、被告人は原審第四回公判期日に適法な召喚を受けながら出頭せず、さらに第五回公判期日にも適法な召喚を受けながら出頭しなかったので、原審は旧刑訴四〇四条によって被告人の陳述を開かずして判決をしたものであることが明らかである。もっとも第六回公判期日(判決宣告期日)について被告人に対する召喚はなされた形跡がないが、かように同条によって判決をする場合には、公判廷において宣告期日を告げてある以上、該宣告期日に被告人を召喚することを要しないものと解するを相当とする。それ故、論旨は理由がない。

よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔)

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